経営危機に陥っているシャープの再建に関して、台湾の鴻海精密工業(ホンハイ、英語でのブランド名:Foxconn)が優先交渉権を獲得したとNHKなど複数のメディアが報じた。
シャープの公式サイトを確認してみると、広報による正式な発表ではまだホンハイに買収されると決まったといった記載はない。しかし、2月4日現在、
株式会社産業革新機構及び鴻海精密工業有限公司の2社に絞って協議を進めております。
と明記されたPDFファイルが公式見解として発表されていることや、NHK以外の大手メディアや海外メディアまでもがホンハイが再建支援、事実上の買収と報じていることからみて、恐らくこの線でほぼ決まりなのだろうと推察する。
クビや借金の踏み倒しは、誰だって避けたい
シャープの置かれた状況と、産業革新機構、そしてホンハイ各々の経営再建策をちょっと見れば、この結果は驚くほどのことでもない。
経済評論家・投資家の深田萌絵氏によると「ホンハイにそんな資金はない!」とのことなのだが、同氏の最近のブログ記事で述べられている、まるで手品のようなファイナンス手法でホンハイがシャープの液晶技術や経営権を握るということになるのかもしれない:
産業革新機構がシャープの負債を引き受けて、鴻海が金も出さずにシャープの資産を引き受ける。
台湾のニュースでは、三菱とみずほの保有する優先株を鴻海が買取、買い取り資金は三菱とみずほがお金を鴻海に貸す。
シャープの負債は産業革新機構が肩代わりして、会社更生法で既存株主の権利をぜーんぶ殺して、鴻海は500億円だけ信用枠をシャープに貸してあげて100%株主になるそうです。
(出典:「【シャープ株】シャープ買収を踏み台に日本乗っ取り策」深田萌絵 公式ブログ 世界経済の裏事情)
いくら日本政府が我が国の液晶技術を海外に流出させたくないと思った所で、マネー資本主義と、その尖兵たる金融機関や多国籍企業と平場で闘って勝てる見込みは残念ながらほとんど無さそうである。
シャープの現経営陣からすれば、ホンハイ案ならクビにならずに済むところ、産業革新機構に任せれば、下手すれば職安に通わなきゃならない訳だ。経営支援を行っている金融機関も、さらなる財務支援、特に債権の放棄を主張する産業革新機構と違ってホンハイに任せれば、債権を放棄しなくて済むのである。
かつての電子立国・ニッポンの誇る液晶技術がどうなろうと、知ったこっちゃない。
クビになりそうな経営者や支援している銀行の立場では、失業や借金の踏み倒しなんて真っ平御免、という訳だ。
かくして、国の組織である産業革新機構は面子を丸潰れにされ、ホンハイとシャープの交渉が万一決裂した場合に備えた「安全牌」にされてしまったのは、同機構からすれば立腹ものだろう。
だが、民間企業の取締役会が決定する経営事項に、国があれこれ口出しする訳にもいかない。
いくばくかの税金でシャープを救済したとしても、100%国営化した訳でもなければ、悔しくても指をくわえて見ているしかないのである。
シャープの太陽光パネル事業をホンハイはどう使うのか
さて、太陽光発電に関わる者としては、やはりホンハイ傘下に入ったとしてシャープの太陽光パネルや太陽電池事業の行方が気になる。
産業革新機構が経営再建を主導していた段階では、再建策の「ウルトラC」としてソーラーフロンティアとの統合という案が存在した。
しかし、ホンハイが事実上シャープを買収し、ホンハイの主張通り事業の切り売りを本当に行わない場合、太陽電池事業もシャープ本体に留まることになるはずである。
とはいえ、シャープが2/4に発表した決算資料を見ると、エネルギーソリューション、つまり太陽光パネル事業が前年同期比で-42.4%、前年比で-37.2%と最も足を引っ張っている。
ディスプレイデバイス事業も業績が悪化したとはいえ、エネルギーソリューションと比べると、前年同期比で-11.7%、前年比で-4.1%と割合から言えばまだマシなのである。
残りの3事業のうち、電子デバイス(前年同期比で+23.1%)とビジネスソリューション(同、3.6%)が何とかプラスで収益の下支えとなっている。
ホンハイの郭台銘(テリー・ゴウ)会長が、シャープの太陽電池事業をどうしようと考えているのかについては、まだ情報が少なく良く分からない。
社員や経営陣をリストラしない、各事業の切り売りもしない、という制約を課して、一体どのようにしてシャープを再建するというのか、いまだに謎である。
ただ、これまでにもアイフォーンを受託製造してきた仲でアップルとの関係が深いホンハイは、中国でアップルに半ば強制されるような形で産業用太陽光発電を手掛けるようになったりもしている。
またスマホの充電のために、外付けあるいはケース内蔵の太陽電池、なんてアイデアも月並みではあるが、可能性は十分にありそうに思う。アップルのアイフォンやアイパッドに太陽電池を搭載するという特許もあった。
そういった経緯を見ると、ホンハイがシャープの太陽電池をどう使うのか、といったシナリオがおぼろげながら見えてくるような気もする。
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