電気自動車のSUVで日本進出、中国BYDとはどんな会社?
いやぁ~、大変な時代になった。
中国BYD(比亜迪)が電気自動車(EV)「ATTO3」で日本市場への参入を開始したからだ。
BYD社については、今回の対日進出で始めてその名を見聞きしたという方も多いかもしれない。
だが、BYDはリチウムイオン電池や自動車を製造するメーカーとして、中国ではかなり存在感のある大企業となっている。
筆者はサラリーマン時代、リチウムイオン電池やEV・ハイブリッド車といったエコカー等の技術や市場動向の調査をかなり長い期間にわたって行っていた。
そのため、中国BYD社については一昔くらい前から知っていたし、広東省・深圳のBYD社工場・事業所に取材・見学で訪れたこともある。
当時の筆者が見たBYD社のEV「e6」や、深圳でe6に同乗試乗したときの感想は、
う~ん、とりあえずクルマの形にはなってるけど、乗り心地とか、ステアリングや足回りの品質なんかは日本車と比べたらまだ全然ダメやん…
というものだった。
とはいえ、BYD創業者・社長の王伝福(Wang Chuanfu)氏の経営手腕やビジョンには注目していたし、BYD社の事業拡大も当分続くんだろうな~とは思っていた。
ちなみに、社名のBYDとは、王伝福氏のモットーだか好きなフレーズだかを良く覚えていないが、”Build Your Dreams“の頭文字に由来している。
BYD社のこれまでの軌跡を見る限り、王伝福氏は自身の抱いていた夢を着々と叶えつつあるし、王氏に影響を受けて夢見たり夢を叶えたりしている人や起業家も少なくないのではと想像する。
その意味で王伝福氏はいわば、「中国版イーロン・マスク」といったところかもしれない。
バフェットの出資、オギハラ買収… 今までのBYDの足取り
BYD社について比較的よく知られているニュースとしては、米国の投資家・大富豪として著名なウォーレン・バフェット氏が、同氏の運営する投資ファンド会社であるバークシャー・ハサウェイを通じてBYD社に出資したことがある。
それが2008年で、それまで一中国企業にすぎなかったBYDの知名度が世界的なものに格上げされたのはこの瞬間だった。
さらに、日本の自動車産業界でBYD社が注目されるようになった出来事が一つある。
BYD社が2010年、金型大手・オギハラの工場を買収したことである。
オギハラ買収によって、BYD社はボディー成形などで日本車に引けを取らない品質のクルマを生み出す能力を手に入れたワケだ。
しかし、その時点では筆者にはまだ、BYD社が本当に電気自動車を日本で売る日が来るとは想像できなかったのである。
もしかすると、日本人としての希望的観測みたいなものが、筆者の心の中にあったからかもしれない。
しかしオギハラ買収から一回りとちょっとの時を経た2023年2月、ついに中国BYD社は電気自動車(乗用車)で日本市場への参入を実現したのだ。
これは日本の自動車関係者にとって、かなりの衝撃なのではないだろうか。
(逆に、もしBYDの日本進出に対して自動車関連業界でショックも何も感じない人はダメだと思うが…)
ちなみに、乗用車では今回初めてBYDの日本進出となるが、実は産業用・業務用車両まで含めると既にBYD社は日本進出を果たしている。
それは今から8年ほど前となるが、2015年2月に京都のバス事業者がBYD社の電気バス「K9」を採用していたからだ。
京都での採用以降も、BYDのK9は沖縄、岩手、山梨(富士五湖エリア)など各地で導入されており、日本市場向けにバス内部の仕様を一部変更するなどBYD社は日本市場にかなり注力していることが伺える。
ちなみに、国内のバス製造大手であるいすゞ自動車や日野自動車は電気バスにはまだ本腰ではないようで、日野の電気バス「ポンチョZ EV」もBYDからのOEM供給によるものらしい。
日本の自動車産業はEVへの移行でも市場で勝ち残れるのか
このように見てくると、日本では乗用車・業務用車のいずれでも電気自動車の開発や導入・普及が遅れている訳だが、その間隙を突いてBYDが日本進出してきたようにも思える。
Wikipediaでe6の現状を確認してみると、筆者が以前みた初代から2代目へと進化を遂げており、デザインも初代より垢ぬけているように感じた。
K9や今回発売開始されたSUVの「ATTO3」同様、BYDはe6でも法人・自治体向けの業務用EVとして2022年に日本進出を開始していたようだ。
電気自動車のSUV・ATTO3自体については、自動車関連のジャーナリストや評論家の方々のレビューを心待ちにしているが、日本進出にあたってはBYDとしても細心の注意を払って製品化した相当にレベルの高いEVになっているのではと思う。
ちなみに、Wikipediaの情報によると、ATTO3は右ハンドルということで日本だけでなく、英国や豪州、インド、シンガポールなどでも販売されるようだ。
バスや業務用の車両ではともかく、消費者の嗜好性や好みなどの左右する度合いの大きいクルマの市場でBYDがどのようにどの程度まで日本人に受け入れられるのかはまだ分からない。
とはいえ、オギハラを買収した時点でBYD総裁の王伝福氏は、欧米市場だけでなく日本市場への進出も当然考慮に入れていたことだろう。
恐らく、日本市場でBYDの電気自動車がそう簡単に受け入れられるとは思っておらず、長期的な計画や戦略を基に日本進出を決めていたのではないだろうか。
トヨタや日産、ホンダなど、日本の自動車メーカーは今後、BYD社と国内外のEV市場で戦うことになる訳である。
これまでグローバルの自動車産業で、日本はほぼ盤石とも言える立ち位置を維持してきた。
だが、日本の産業界が液晶、DRAMなどの半導体、太陽電池など様々な分野でトップの座を中国や韓国の競合企業に次々と明け渡してきた残念な経緯を振り返ると、一日本人として日の丸自動車産業の行く末に一抹の不安を禁じ得ない。
日本産業界にとって最後の砦、自動車。
その自動車産業では現在、電気自動車への移行を含め「100年に一度」の変革が進行中だ。
筆者の懸念が、ただの杞憂や思い過ごしに終われば、と願うばかりである。
コメント
全く同感です。中国でかつて日本車No.1だった日産は凋落し、トヨタ、ホンダに差を広げられる一方です。迷走する日産の再びの倒産危機は近いと確信してます。その際に救いの手を伸ばすのがBYDという気がします。
湘南ジョージさま、
コメントどうもありがとうございます。
BYDが日産を救済… そういうシナリオもあるのかもしれないですね。
あまり考えたくないですが、ゴーン無き後の日産にはあるのかも?
EV市場への取り組みという点では、トヨタやホンダにも不安が残りますしね。