シャープが7000人リストラ? ホンハイ買収後の太陽電池事業は…

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7000人の人員削減(リストラ)」というショッキングな報道で、台湾ホンハイ(Foxconn)によるシャープの経営再建が、本格的に始動した。

ただ、こういったニュースによる反響が多き過ぎたことを案じたためか、いったんは決算概要資料に記されていた「7000人」という箇所を削除し、「グローバルでの人員適正化」というオブラートに包んだ表現に修正したことが明らかとなっている。

シャープ 2015年度 決算概要

シャープの構造改革骨子(出所: シャープ 2015年度 決算概要)

シャープ、最大7000人リストラの真実味
「グローバルで最大7000人程度の人員削減」――。シャープが5月12日15時過ぎに発表した2016年3月期(15年度)の決算概要資料にはこう明記されていた。しかし、その資料は1時間も経たないうちに削除され、該当箇所…

郭台銘(テリー・ゴウ)董事長はシャープ買収の交渉段階で、日本国内でのリストラについて「可能な限り雇用の維持に努める」旨の発言をしていた。

だが、本音では余剰人員の整理が、シャープの経営再建のために早晩避けられないことを誰よりも良く分かっていたはずだ。その意味では、この数字もさして驚くべきものではなく、やはりそうだったのね、と感じるだけである。

シャープ経営再建の「お荷物」、太陽電池をどうするのか

シャープ経営再建の過程で主要なリストラ対象となる可能性が高いのが、太陽電池(エネルギーソリューション)事業である。

損失の絶対額では、屋台骨の液晶(ディスプレイデバイス)事業よりマシに見える。しかし、シャープの事業ポートフォリオに占める比率や市場での競争力などを勘案したとき、やはり同社の足を一番引っ張っているのが太陽電池であるのは、今回の決算発表資料を見ても一目瞭然だ。

シャープ・2015年度のセグメント別売上高

シャープ・セグメント別売上高(出所:シャープ 2015年度決算概要)

シャープ・セグメント別営業利益

シャープ・セグメント別営業利益(出所:シャープ 2015年度 決算概要)

筆者がホンハイ・郭氏の立場で考えるなら、やはり太陽電池事業という「お荷物」を何とかしない限り、経営再建の道筋は付けられないと判断する。

現時点で、シャープの経営再建における太陽電池事業の扱いには次の3つのシナリオが考えられる:

  1. 太陽電池事業の譲渡・売却をせず、シャープの事業ポートフォリオにそのまま残す
  2. 太陽電池事業ごと、すべての事業資産を譲渡・売却
  3. エネルギーソリューションで利益を生む事業のみ残し、それ以外を他者に譲渡・売却

以下、それぞれのシナリオとその可能性をもう少し掘り下げてみよう。

太陽電池の製造をそのまま継続というシナリオはほぼ無い

まず、太陽電池事業をポートフォリオの一つとしてそのまま存続させると言うシナリオ。

このシナリオの可能性は恐らくほとんど無いだろう。なぜなら、シリコンの購買契約や高コストな国内製造工場という負の要因を残したままでは、シャープ全体での黒字化が困難だからだ。

シャープは、元々アモルファスシリコン薄膜太陽電池とシリコンの単結晶・多結晶太陽電池の二種類の太陽電池技術で製造を行っていたが、コスト面で競争力を失い、2014年7月に薄膜太陽電池事業からは撤退した経緯がある。

製造工場の資産では、奈良県の葛城工場で薄膜太陽電池の製造を行っていたが、これを取りやめて、太陽光パネルの製造を堺工場に集約した。葛城工場(従業員数は750名程度)では、パワコンの開発など川上からメガソーラーなど太陽光発電所の運営までの川下までの事業に取り組んでいるようだ。

残っているソーラーパネル事業でも、高価なシリコンの購買契約が足枷となっているため、低価格をウリにしている中国勢や品質と価格でバランスの良い欧米勢などと比べると競争力に乏しいのが現状。

太陽電池事業の丸ごと譲渡・売却が最も手っ取り早いが…

となれば、最も手っ取り早いのが事業まるごとの譲渡、売却という2番目のシナリオだ。

ただ、この場合は買収交渉の当初にゴウ氏自ら言及していた「太陽電池事業も売却せず維持する」という公約を結局反故にすることになり、相当の批判を免れないだろう。

ただ、人員削減の影響があまりなく、従業員を含め債権者や株主などステークホルダーの誰もが納得する妥協案が見つかれば、丸ごとの事業譲渡がテリー・ゴウ董事長にとって最も魅力的であることに変わりはない。

そのままの温存も、丸ごとの事業譲渡も不可となった場合、残った選択肢は、エネルギーソリューションを事業ポートフォリオとして残しつつ、不採算部分を処分、つまり3つ目のシナリオが現実味を帯びてくる。

太陽電池関連で存続可能なのは、研究・開発や営業・マーケティングと日銭を生み出す売電事業のみか

この場合、筆者が経営に責任と権限を持つ立場にあったとしたら、やはり赤字の元凶となっている製造工場などの余剰設備資産に手を付けるしかない。

中国ですら人件費の高騰で製造工場のアジアなどへの移転が進みつつある中、依然として高コストなシリコン材料を用い日本国内の高コスト工場で製造するメリットが全く無いからだ。

残しても良いと思えるのは、高機能・高付加価値のソリューションとして期待できそうなクラウドHEMSや蓄電池の研究・開発やマーケティングの機能、そして日々、売電収益を生み出しているメガソーラーなどの運営部門など。

太陽電池も製造事業は取り止めるとしても、今後のことを考慮して先端技術の研究開発をシャープ本体で続ける価値はありそうに思える。

シャープ・鴻海の戦略的提携

シャープ・鴻海の戦略的提携(出所:シャープ 2015年度 決算概要)

単結晶・多結晶の太陽電池や太陽光パネルの製造は、シャープ本体でやる意義や必然性がほとんどないので、他社に製造資産や人員をすべて譲渡・売却し、外部から調達する方が大幅な低コスト化が可能で合理的なはずである。

一方、今後のゼロエネルギー住宅(ZEH)などの需要は堅調だし、家電部門との相乗効果も見込める。産業用も太陽光パネルやパワコンを低コストで調達できれば、まだ事業性は残る。

堺工場で自社生産している太陽電池は高々年間200MWで全体の約1割、残りの大半は中国製(OEM)だという。

現在、グローバル市場でシェアトップを競うトリナ・ソーラーやJinkoソーラー、カナディアンソーラーといった太陽光パネルメーカーは、工場1つで年産1GW以上とケタ違いに多くの生産量を誇る。

これだけ生産量が違えば、コスト面でシャープが太刀打ちするのは難しいだろう。

ニュース報道をよく読むと、削減のメドとなる7000人には中国などの製造拠点の人員も相当に含まれているようだ。したがって、日本国内では多くても3000人、もっと少なければ1000~2000人程度のリストラで済む可能性もありそうだ。

ということで、結論。

やはりいずれにしても太陽電池事業まるごとの譲渡・売却、さもなければ、一部の収益性の高い部門や事業のみを残しつつ、太陽電池の国内製造事業からはほぼ撤退というシナリオが可能性としては最も高いように思う。

あとは、各ステークホルダーの利害関係などから、軋轢や摩擦が最も少なく、ホンハイ・シャープとしても経済合理性がある方向で決着するのではないだろうか。

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