企業ではなく国の研究所だから叶った植物工場の見学
つくばサイエンスツアーのレポートも後半、太陽光発電ではないが、関連した技術ということで太陽光利用型植物工場についても記しておこう。
今回の3Eフォーラムのアトラクションとしての見学ツアーでは、普段では非公開で見る事が出来ない施設を見ることができるというのが売りだった。
ということで、今回西高野ソーラーシェアリング発電所の後に見せて頂いた「農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構/NARO)」の太陽光利用型植物工場も、一般の観光客向けの展示室ではなく、本来なら見学などできない実際の植物工場そのものを見学させて頂いたのである。
そちらでご説明下さった方(お名前を聞きそびれてしまった…失礼)によれば、植物工場による農作物の生産に真剣に取り組んでいる企業ほど、見学など絶対に受け付けないそうである。
その理由は、人間が植物工場の内部に入ることによって、雑菌やら病原体やらが人と一緒に入り込んだりして、栽培中の植物や作物が病気になったりするからだそうだ。
今回の我々の見学ツアーは、まぁ特別な機会ということと、民間の企業ではなく国(農林水産省)の研究機関で研究が主体であり、作物を作って売るのが彼らの業務ではないからということなのだろう。
もし彼らの植物工場で病気が発生したらしたで、その原因や対策を研究するのも仕事になるから、というのは確かに分かる。
入口でエアシャワーを浴び、植物工場の中へ…
さて、植物工場自体の中に入るためには、半導体工場のように入り口でエアシャワーを浴びる。
エアシャワーの風でゴミや病原菌を落として……、ということだが、どれ位効果があるのだろう。
植物工場の施設の中に入ると、苗を育てる部屋や、育てた苗をさらに育てる温室みたいな部屋を実際に見せて頂いた。
筆者は以前、植物工場の施設や機材を展示会で見た事はあるのだが、実際の植物工場はやはり今回が初めてであった。
ただ、完全人工光型の植物工場ではなく太陽光利用型ということで、見た感じはやはり温室に似ている。もちろん、こちらの方が人工光型より一般的な農業に近い。
普通の温室との最大の違いは、やはり水耕栽培という所である。植物工場ということで、作物を土ではなく、養分の含まれた水で育てるのが特徴だ。
露地栽培 → 温室・ハウス栽培 → 太陽光利用型植物工場 → 完全人工光型植物工場
という形で農業が人工化というか工業化していくのだろう。
温室・ハウス栽培との違い、植物工場のメリットとは
農研機構の太陽光利用型植物工場では、実証試験の目的で様々な作物の栽培を行っている。
栽培している作物は、トマト、キュウリ、パプリカなど。
では、普通の農家が手がけるハウス栽培と太陽光利用型植物工場とでは、水耕栽培によって何が変わるのか?
見学の際のご説明によると、植物工場のメリットは「収量」だそうだ。
普通の温室で十分な収量が確保でき農業が成り立つのであれば、ハウス栽培からわざわざ水耕栽培にする必要はない。
植物工場の水耕栽培によって収量の大幅増というメリットの可能性があるからこそ、研究を行っているのである。
一方、植物工場のデメリットや課題とは
しかし、例えばキュウリなどでは、日本の品種だと実はあまりならずに茎や葉ばかりが育ってしまう品種があったりするそうだ。
そこで、作物の品種を改良すると同時に、こういった温室型の植物工場での栽培によって、温度や光の当たる量、与える養分の量などを最適な状態に管理することによって、一般的な露地栽培や温室栽培の何割増し、あるいは何倍も多くの収量が実現するという。
ただ、農業と同じで植物工場にも課題やデメリットがあって、温室の設備投資だとか、当然ながら作った作物の販路を確保しておかないと駄目だとか、まぁやはり経営を成り立たせるのは結構大変らしい。
また、露地物でも同様だが、作物が病気になると、その病原菌にやられた苗や部分は全部ダメになったりして大損害になる。
とまぁ、大体こんな感じで説明を頂いて、また少し薀蓄が貯まった所でこの日の見学メニューはほぼ終わり、となった。
植物工場見学のお土産ということで、ここで採れたトマト、キュウリとパプリカをいくつか頂いた。
ただ「お土産をどうぞ」と言われた時のダッシュで出遅れてしまい、トマトはほとんど品切れだった。
1、2個だけ小さい実で少し傷がついているトマトだけが残っており、その内の一つだけを頂いた。
今回のツアーでは、なぜかオバちゃんが結構いたので、こういう展開を予測しておくべきだったかもしれない(苦笑)。
植物工場の見学を終えてバスに乗り込み、農研機構の敷地から出る少し前に見かけた、「DNA組み換え作物……(圃場だか何だか)」という表示が気になった。
品種改良の作物と遺伝子組み換え作物(GMO)とは何が違うのだろう、等といった疑問を抱きつつ、つくば駅へとバスで送って頂いた。
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