家庭用太陽光発電の国内市場もついに「血の海」に
太陽光発電の国内市場に関して、1週間ほど前の日経電子版に掲載された記事がある:
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDZ29I5V_Z20C15A6TI1000/
この記事を読んで思い至ったのは、この夏以降の国内の住宅用(家庭用)太陽光発電システムの市場で競争が激化し、恐らくコスト(≒kW単価)も下落するだろうということだ。
これまでは家庭用(10kW未満)と産業用(10kW以上)とで、かなり明確な線引きがあり、それぞれの市場セグメントで各メーカーが棲み分け、その中で競争が行われていた。
大雑把には、家庭用→国内パネルメーカー、産業用→海外パネルメーカーという図式である。
ところが、上記の日経記事が指摘するように産業用の市場の伸びが今後あまり期待できないため、これまでは産業用を主力としていた海外メーカーも家庭用に打って出てくるということである。家庭用セグメントがいよいよレッドオーシャン(血の海)化することは不可避だ。
勝敗を分けるポイントとなる項目は、主に価格、流通チャネル、マーケティング/販売促進策の三つ。(製品そのものも当然あるが割愛。理由については以下を読み進めて頂きたい。)
価格競争で家庭用のkW単価も相当に下落か
まず、価格。これは現時点では国内メーカーのソーラーパネル=高い、海外メーカーのソーラーパネル=安い、という構造がある。これはある程度は維持されるだろうが、国内メーカーも価格競争に相当程度巻き込まれることは覚悟しなければならないだろう。
ソーラーパネルのみのコストを比較したとき、kW単価が25万円~40万円する国産パネルと最安で5万円~20万円程度までで入手可能な輸入パネルがあれば、よほど品質や保証などで違いがなければ、ブランドに対する特別なこだわりのある少数の人を除いて多くの消費者が価格の安い方を選ぶだろうからだ。(kW単価5万円のパネルは買う方も相当に勇気が要ると思うがw。)
国内メーカーがいくらモノの品質や耐久性が違うといっても、家庭用太陽光パネルの品質や耐久性が本当に分かるのは、屋根の上に設置して最短でも何か月か経った後だからである。
経済観念がある消費者なら、B2Bと同様に複数の業者に相見積くらい出させるだろうし。
よって、来年の今頃には住宅用のkW単価の平均が、現在より相当に下がっていても不思議はない。
販売力を持つ販売店や業者をいかに自陣に取り込めるか
次に流通チャネル。これもソーラーパネルのメーカーにとっては、非常に重要な項目である。
産業用でももちろん同様な面はあったが、いかに多くのソーラーパネルを売り捌けるかは、消費者の顧客を多く持つ、または営業力のある施工業者や販売業者をどれだけ自社の陣営に取り込めるかでかなりの程度左右されるはず。
メガソーラー(大規模太陽光発電所)を1ヶ所作れば、何千枚、何万枚もパネルが売れるという産業用とは、ビジネスモデルが根本的に異なるのだ。
いくら腕の良い施工業者でも、営業力がないとメーカーにとっては厳しい(といって、いくら数を売れても、手抜き工事や欠陥工事ばかりの業者もあとで大変なことになる訳だが)。
もっとも、最近はヤマダ電機とかビックカメラのような家電量販店でも家庭用の太陽光発電を扱っているので、メーカーにとって手っ取り早いのはこういった家電量販店に卸せるかどうかだろう。
筆者は住宅用を飛び越していきなり産業用太陽光から始めてしまったので、その辺の事情や実際をあまり良く理解していないのだが、営業力・販売力のある小売店や量販店と組むことが出来れば、ソーラーパネルのメーカーとしてはかなり楽だろう。
海外メーカーにとって最大の課題:ブランド認知度の向上
パワフルな販売チャネルを手にしたとしても、消費者に商品やブランドを知られていなければB2Cでは話にならない。既に知名度の高い大手国内メーカーと比較して、海外のメーカーにはこれが一番大変かもしれない。
もちろん、知恵と工夫、想像力と戦略性があれば、自社のソーラーパネルの認知度を高めることは十分に可能である。
例えば、米サンパワー。日本の平均的な一般家庭で「そろそろウチも太陽光発電でも付けようか~」なんて人は恐らくサンパワーについてはご存じないだろう。(サンパワーの方が、このブログをもしお読みなら、大変失礼つかまつる…)
しかし、サンパワーにとっては日本の消費者にアピールする非常に好都合な出来事が最近あった。このブログの読者の方ならお分かりだろう、「ソーラーインパルス2(Solar Impulse 2: Si2)」である。Si2の翼や機体に貼り付けてある約1万7000枚の太陽電池はサンパワー製なのだった。
当初は中国の南京からハワイまで飛行する予定だったソーラーインパルスが、天候の都合でやむなく日本の名古屋に着陸した。この想定外の着陸はソーラーインパルスのチームにとって費用や時間の面では痛かったかもしれないが、サンパワーにとっては絶好の機会となったはず。
なぜなら、名古屋に着陸するとなった時点から、やれ「UFOか!?」とか(笑)、「太陽電池で飛ぶソーラー飛行機が名古屋にやってくる~!」、そして「ハワイまで無事に飛行、世界記録更新!」な~んて形で主要メディアにも大々的に報じられて大変な話題となったからだ。
ツイていたサンパワー、好機をモノにできるか?
もちろん、一般人はソーラーインパルスの太陽電池をどこのメーカーが製造しているなんて知りもしないだろうが、サンパワー社にとっては住宅用の市場に打って出る上でまたとないマーケティングのチャンスが、文字通り天から降ってくる形で出来上がったのである(笑)。
あとは、多少の広告費なりリソースなりを使って、消費者の認知度が上がるマーケティング施策を実行すれば、比較的簡単に認知度アップが図れ、住宅用の市場セグメントでかなりの市場シェアを獲得出来るのではないかと思う。
(もちろん、販売店や量販店の営業マンなどへの研修では、内緒の話ということで「国内大手電機某社のソーラーパネルはウチからのOEMのパネルだと言えば、品質面の売り文句になる…」とサンパワー社は耳打ちすると予想しているw。)
他のメーカーにとっては、残念ながらそこまでラッキーな話はなかなか無いと思うが、それこそ脳味噌をフル回転させて知恵を絞れば、ネットでバズるクリエイティブな認知度向上の方法などいくらでも考えられるだろう。
自社でそれが難しいのなら、そういったことが得意な広告代理店なりマーケティングコンサルタントなりに、きちんと報酬をお支払いして依頼すれば良いだけの話。
個人的には、やはり今年から住宅用市場に参入すると公式に方針を表明しているベンチャー企業のLooopがどんな販売促進策、認知度向上策を繰り出してくるかに興味がある。恐らく今月末の「PV Japan 2015」でLooopのB2C向けの作戦は明らかになるだろう。
もちろん、今度のPV Japanでは出展するソーラーパネル・メーカーの多くが、住宅用市場の攻略を念頭にブース出展やノベルティ、プロモーションを考えているに違いない。筆者としては、そういった所を頭に入れて今月末の取材に臨みたいと考えている。
まとめ:今後の家庭用太陽光発電システム市場は見もの♪
それにしても、かなり冷え込んでしまったとはいえ住宅用の太陽光発電の市場も、こういった状況があることを考えると、なかなか興味深いかもしれない。トリナソーラー、カナディアンソーラー、インリーソーラーといった中国の大手も住宅用への本格的な参入を当然考えているはずで、まさに住宅用市場は激戦区となるに違いない。
中華パネルの大手が仁義なき(?)価格破壊を仕掛けて住宅用太陽光発電システムの価格が大幅に下がれば、補助金の廃止や買取価格の下落などで売り上げが鈍っていた住宅用太陽光の市場が再び活性化されるかもしれない。
高品質なイメージが強いドイツ・ブランドのソーラーワールド、韓国ハンファグループのQセルズも、住宅向けに力を入れてくるだろう。戦略的に訴求するポイントは、日本勢より値頃感のある価格、それでいて日本製と同等の耐久性、といったところか。
そして、国内メーカーの京セラ、シャープ、ソーラーフロンティア、パナソニックなどがどのようにして迎撃または反撃するのかも見どころになるかもしれない。いずれにしても、品質や性能にあぐらをかいて、手を拱いて黙ってみているだけだと市場シェアを海外勢にゴッソリと食われるのは、火を見るより明らかである。
今年は、国内ソーラーパネルメーカーにとって太陽光発電の市場で生き残れるか、いよいよ退場を余儀なくされるかの正念場になりそうだ。
photo credit: Kilauea Lava Eruption via photopin (license)
コメント
住宅用が高いのは施工費が原因であって、今でもパネル自体は十分安いかと思います。2Kくらいだと半分くらいは持って行かれてしまいます。
にゃんた殿、
コメントありがとうございます。
そうでしたね、設置の工事費の割合が高いということを失念しておりました。
規模の経済の観点からも、やはり野立てよりも住宅の屋根上の方が工事費のkW単価が高くつくのはある程度やむを得ない気はしますが…
工事費(人件費)を下げるのは、なかなか難しいように思います。
あとは、屋根の上でもDIYで頑張るとか、コストを圧縮しようと思えばそんなところでしょうか。
水が付かない程度の台を作って、その上に並べていくのもいいかなぁと思ってます。盗難の問題があるので一筋縄ではいきませんけどね。
産業用の中国製パネルと日本メーカーのパネルの価格差は明らかです。ワット単価は前者は100円以下、後者は200円を超えます。日本メーカーのパネルも中国から輸入しているものもあるので日本メーカーのラベルを貼っただけで高くなります。
住宅の屋根はもともと傾斜しているので野立ての様に架台費用が小さくなる利点があります。住宅の屋根でも折板屋根や陸屋根・無落雪屋根は架台を別に組む必要があるため高くなりますね。
にゃんた殿、
私も自宅で使う太陽光としては、必ずしも屋根上じゃなく、庭とかに野立てで設置するのでも良いかなと思ってます。メンテナンスを考えると、その方がやり易いですしね。
chieppyさま、
コメントありがとうございます。確かに、中国産と国産では価格差がありますよね。
ご指摘の「日本メーカーのラベルを貼った」中華パネルは、いかがなものかと思いますが
(どこで製造されたか、聞けばきちんと教えてくれるんでしょうか)。