連系工事負担金:払うべきか、払わざるべきか
「電力系統網に連系して欲しければ、連系工事負担金を2億円支払いなさい」――
これは、九州電力管内で500kWの中規模太陽光発電所(ミドルソーラー)の連系申請を行っていた方に対して、一年も待たされた挙句の果てに、九電からつい最近出された回答である。
太陽光発電ムラのコミュニティへの投稿から明らかとなった、非常に高額な連系工事負担金の事例で、こういう連系工事負担金の請求が電力会社から来ることがあると、噂には聞いていたが、その具体的な事例として詳細な数字や状況を見聞きしたのは筆者も初めてだ。
先日、筆者の広島県の低圧の太陽光発電所(50kW未満、正確には太陽光パネルは76.5kW、パワコン49.5kW)の連系工事負担金は20万円も掛からなかったので、良い意味で驚いたとお伝えした。筆者の経験ではこの負担金は、低圧(50kW未満)だと上を見てせいぜい100万円、単純にリニアにスケールすると500kWならその上限は1000万円までが妥当だと考える。
今回ご紹介する例は筆者の例の真逆となる訳で、ミドルソーラーの連系工事で系統なり変電所の増強なりが必要になるとはいえ、この金額の連系工事負担金では発電事業として進めることが現実的にほぼ不可能ではないかと思われる。
当事者であるSさんのご説明によると、彼が系統連系を申請した地域の変電所や送電網で同様に受益者負担のような形で系統設備の増強のための工事費の総額365億円を申請された発電所の出力容量に応じて按分した結果だという。同一の変電所に100MWの申し込みがあった計算だそうだ。
この負担金の回答に対して、太陽光ムラの中でも反響があった:
- 本当に系統増強だけでそんなに掛かるのか
- 半分は嫌がらせじゃないのか
- 原発停止の影響で送変電設備の更新がストップしているのを、太陽光発電の事業者に押しつけているだけではないか
などなど様々な意見や感想が寄せられている。(コミュニティが非公開なので、すべての投稿をそのままコピペして引用することは差し控えさせて頂く。)
「九州電力ショック」の悪夢が再発?
太陽光発電所が激増したため系統容量がひっ迫が予想されるため、系統連系の申請を一時ストップするという事態となった、「九州電力ショック」。
昨年の秋頃にこの事件が勃発し、結果的にこの動きが北海道や中国・四国など他の地域の電力会社にも波及(筆者が「再エネ買取中止ドミノ」と名付けた一連の動き)、結果的に無制限(もちろん最悪の場合だが)の出力抑制を受け入れない限り、太陽光発電事業を行えなくするという国・経済産業省のさい配が行われた(国の言い分は、少し出力抑制させてもらう代わりに、連系したい人を皆連系させてやるから辛抱しなさい、ということ)。
しかし、このような泥縄で行き当たりばったりの政治判断が下された結果、買取価格が下落して収益性が落ちつつある太陽光発電の事業性がさらに一段と不透明になり、銀行など金融機関が太陽光発電事業への融資を貸し渋る状況となってしまった。
このような事業環境の変化は、太陽光発電事業を行いたいと考える事業者を確実に減少させている。PV Japan の出展社数や小間数の減少にもそれが如実に反映されていたし、筆者も初日の昨日少しの時間ながら足を運んだ限りでは、初日の来場者数もかなり減っている感じだった。
また、こういうマイナスのメンタリティは、こういった影響がほとんど無いはずの住宅用太陽光発電にも伝搬しており、産業用・住宅用を問わず、太陽光発電に対する意欲が急速に減退しているのが、現在の状況だと認識している。
太陽光では、このような惨状が呈される一方で、九州電力は鹿児島県の川内原子力発電所に燃料を運び込み、再稼働の準備を着々と進めている。普通に考えれば、九電が太陽光の連系を拒否し、原発を再稼働させたいための阿漕な行動と取れると思うが、国・経済産業省・資源エネルギー庁もそれを是としている訳だ。
全ての案件が低圧である筆者は、自身の太陽光3号基の負担金が安くて済んだとホッとした訳だが、一方でこういった事例を見るに至って、やはり現在の電力行政には大きな問題があると考えているし、その是正のための電力自由化・電力システム改革がやはり骨抜きとされつつある現状を非常に憂慮している。
再エネ賦課金や託送料、再エネ価値問題は避けて通れず
ちなみに、先の記事で「電力システム改革関連の課題について 」と題して簡単なアンケートを行っていた。
その結果は、「面倒臭いし難しそうだから、興味ない。」が37票でトップ。次が「 再エネ賦課金など、続きを早く読みたい!」で27票、 「続きを読みたいが、アップされたら読むので無理しなくて良い。」が17票と続いた(票数の下1桁が全部7なのは偶然)。
当初この途中結果を見ていて、やはりこの種のネタでは記事を読みたくない人が多いのだな、では無理して書く必要もないか…、と感じていた。
しかし、それでは電力システムを現在支配している層(≒「越後屋」や「悪代官」)の思うツボという状態を今後も長く容認することになると痛感するし、今回のような電力会社側の勝手な横暴が許される訳が無いと思う。
アンケートの回答結果でも、トップではなかったが「早く読みたい…」方と「無理しなくて良いが書かれたら読む」とご回答の方の合計は過半数を超えており、「面倒で難しいから興味ない」という方の数を上回る。
よって、筆者としては、再エネ賦課金や託送料、再エネ価値の扱い(電力会社が電力の電源の内訳を明らかにすることの可否や是非、執筆予定)について、出来るだけ多くの方々に分かり易く読んでもらえ、理解しやすいよう配慮しつつも、とにかく本ブログの記事として書くことに決めた次第。
今回のような、上位系統の整備や工事費用をどうするか、といった問題は、来年の電力自由化の本格施行後は、電力広域的運営推進機関(広域機関)が解決を担うことになる。しかし「越後屋」の意向によって、広域機関の監督権限や独立性が弱体化される可能性が相当に高いと筆者は考えている。
もし広域機関(OCCTO)が欧州や米国のようにまともに機能すれば、今回のように系統連系で再エネ発電事業者側に断り見積りのような連系工事負担金が求償されるようなことは今後なくなるはずなのだ。
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