九州電力が揚水発電所を太陽光で使えない事情とは

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九州電力ショック以降、いくつかの環境保護団体やNPOなどから再生可能エネルギー接続保留の問題点を指摘する声明や提言が発表されている。その中には筆者が既に本ブログでも指摘したように、揚水発電(揚水式発電)の活用が言及されていた(関連リンク)。

日本の揚水発電は原子力発電所と抱き合わせ

揚水発電については、当の九州電力も今後、「揚水発電の活用や火力の運用見直し、30日ルールの活用、地域間連系線の活用などの対策」を、数か月かけて検討するとしている。しかし、筆者からすると、なぜ揚水発電の活用の是非に数か月も掛かるのか、理解に苦しむ。

そもそも日本の電力会社が揚水発電所を持っているのは、原発のためである。なぜかと言うと、原発というのは一度稼働すると、火力発電や水力発電と異なり、停めることが難しくまた細かい出力制御などが構造的に不可能ないし困難だからである。

揚水発電の仕組み-巨大な「蓄電池」

揚水発電の仕組みというか、最も想定された使い方は、以下の通りだ。

揚水発電の原理・仕組み

揚水発電の原理・仕組み(出典:米TVAの資料を基に作成)

まず、原発を稼働していると夜間に需要が減り余ってしまう電力を使って下側のダムの水をポンプで汲み上げて上側のダム(貯水池)に貯める。そして昼間に需要が増えた時に上側のダムから電力需要に応じて放水しタービンを回して発電する。

つまり、揚水発電というのは、電気エネルギーを水の位置エネルギーに変換して蓄える仕組みで、巨大な蓄電池みたいなものと思えば良い。

ちなみに米国のElectric Power Research Institute(EPRI、日本の電力中央研究所に相当する研究所)は、現在の技術で大規模な蓄電システムとして使えるのは、揚水発電と圧縮空気エネルギー貯蔵(CAES)だけだとしている。

揚水発電のデメリットや問題点:効率、コスト、・・・

なお、揚水発電のデメリットとしては、まず蓄電時の電力量より放電時の発電量の方が原理的に常に少ないという点がある。放電時の発電電力量は蓄電時の電力量の70%程度、つまり揚水発電の効率は約70%。ただ、原発であれ太陽光であれ有り余る電気を捨てる位なら、損失が30%程度あっても蓄えておく方がマシということだ。

他にも、大規模なダムを作るため、揚水発電にはコストが高い、環境破壊を引き起こす、といった問題点もある。ただ、既に作ってしまったものは、フルに活用すべきだろう。

揚水発電は太陽光などの再生可能エネルギーにも使えないのか?

揚水発電と言う蓄電池は、原発以外の電気では本当に使えないのだろうか。

“やらせ”や捏造が得意な彼らだから、「そうです。揚水発電は原発のために作ったので、原発以外で発電した電気では使用できません。」と開き直って言うかもしれないw。だが、一度発電された電気であれば、その一次エネルギーがウランであれ、石炭であれ、石油であれ、太陽光であれ、風力であれ、変わりは無いはずである。

どうしても九電(または東電でも関電でも良いが)の技術者の方が、日本の揚水発電は原発で作った電気でしか使えないというのであれば、それを素人にも分かり易く噛み砕いて説明して頂きたいものである。

ちなみに、九州には揚水発電所が3か所あり、すべて九州電力が保有、運用している。

九州電力の揚水発電所一覧

∴ 揚水発電三か所の合計出力容量=230万kW(いずれもタンデム式とみられる)

この230万kWという容量は、九州全体のピーク需要1300万kWの約17~18%に相当する。

地理的な関係から推測すると、佐賀県の天山は玄海原発のため、熊本の大平と宮崎の小丸川は川内原発のために建設したと思われる。

電力の詳細には素人の筆者だが、揚水発電は太陽光発電で有り余った電力を吸収するためにも十分に使えるのではないかと考える。

夜間に原発で余る電力の代わりに、昼間に太陽光で余る電力でタービンを回して発電するだけだからだ。

仮に九州全体で1500万kWを太陽光やその他で発電しても、1300万kWを消費しつつ、余った200万kWは揚水発電でためておくといったことが出来そうな気がするのだが。

そうだとすれば、慌てて買取の中止を宣言して太陽光発電を含む再生可能エネルギー産業を混乱に陥れたりせずとも、もう少し他にやり方があったのではないだろうか。

もちろん、それぞれの原発に比較的近い場所に揚水発電を設置してある点を考慮すると、太陽光発電の場合、系統網の運用に何らかの工夫や注意、あるいは何らかの改修(送電容量の増強)は必要になるかもしれない。

それでも、例えば大平と小丸川の発電所は熊本、宮崎、鹿児島の太陽光発電所を、天山は佐賀、長崎、福岡などをそれぞれ主にカバーできると考える。

小丸川発電所では可変速揚水発電システムを採用

ちなみに、九電の水力発電所の概要の説明には、

揚水発電所は発電機の起動、停止が短時間にできるため、他の発電所の事故等の緊急時に発電することも大切な役目です。

と記してある。この特性は、太陽光や風力のように天候によって出力がコロコロと変動する電源に対しても十分に使えるということではないのだろうか?

さらに、九州で最大の出力を誇る小丸川揚水発電所の発電機には、「可変速揚水発電システム」を採用したと同じページに記述されている。

この可変速揚水発電システムというのは、原理のうえで系統の需給状況に合わせて、きめ細かな入力電力の調整が可能な揚水発電であり、太陽光や風力といった「不安定」な出力の電源の需給調整には正にピッタリな仕組みだと考えられる。
(出典:可変速揚水発電システム|電気工学用語集一覧|パワーアカデミー

現在、我が国では西日本の九電、関電、四電以外の原発は稼働していない。ということは、揚水発電の稼働率も低く、「宝の持ち腐れ」状態な訳である。

太陽光発電の電気が余りすぎて系統網が不安定になり停電が起こる、だからもう再エネ買取は受け付けません、というのが九州電力ほか大手電力の言い分だったと思うが、折角持っている揚水発電という設備をどうして活用しないのだろう?

太陽光でも揚水発電を活用し需給調整(追記:2022年11月)

本記事の執筆・掲載後、8年が経過し、大手電力における揚水発電所の使い方が少し変わってきたようだ。

固定価格買取制度によって日本中に設置された太陽光発電の電力が、電力需給によっては余ることも珍しくなくなっている。そのため、電力大手各社は昼間に余剰となった太陽光発電の電力を揚水発電所で吸収しているという。

例えば、東京電力は揚水式水力発電所として「神流川発電所」(群馬県多野郡上野村)や「葛野川発電所」(山梨県大月市)を保有、運用している。

最近では、神流川や葛野川の揚水発電所を昼間に運転し、電力需給がひっ迫した際に発電することで電力需給の調整を行うことが増えている。

巨大「蓄電池」に…揚水発電の役割が変わった理由 ニュースイッチ by 日刊工業新聞社
揚水式水力発電所の役割が変わりつつある。揚水発電は上ダムから下ダムに水を落とし込んで発電し、その水をポンプで再び上ダムに戻して次の発電まで待機する。かつて原子力発電所が十分に稼働していた時は、余った夜...

もちろん、原発が稼働している九電、四電、関電では、引き続き夜間に余った電力を揚水発電で貯めていると思われる。

【関連リンク】

九州電力の再生可能エネルギー接続保留に対し声明を発表
2014年9月、九州電力は「再生可能エネルギーによる発電設備の接続申し込みを、9月25日から数か月間にわたって管内全域で保留する」ことを発表しました。これは、2012年の「固定価格買取制度」の発足以来、導入が進んできた日本の再生可能な自然エ...
ライブラリ | ISEP 環境エネルギー政策研究所

なんと、再エネ活用のために揚水発電所を新設!?

九州電力は今後10年以内に揚水発電所を新設し、太陽光などの再生可能エネルギーの有効活用を進めるという方針を固めたらしい。

九電が揚水発電所新設へ 数千億円規模、再生エネを有効活用 宮崎、大分で候補地選定 | 西日本新聞me
九州電力は再生可能エネルギーで生み出す電力を有効活用するため、巨大な蓄電池の役割を担える「揚水発電所」を新設する方針を固めた。太陽光に...九州電力は再生可能エネルギーで生み出す電力を有効活用するため、巨大な蓄電池の役割を担える「揚水発電所...

西日本新聞の記事↑は有料会員限定のため全文を読むには会員にならなければならない(汗)。
九州電力のサイトを確認したが、ニュースリリース等は出ていないようで、西日本新聞のスクープなのかもしれない。

詳細が分かればまた本ブログでもお伝えしたいと思うが、それにしても時代は変わった…
(追記:2023/1/4)

コメント

  1. 山口 より:

    太陽光発電自体が、幅はあるとしても日中の電力量が多い時間帯にしか発電できないことを考えると、この記事の論には少し無理があるのではという印象をもちました。(もちろん、私も電力に関しては素人ですが・・・。)

  2. 太陽光男 より:

    川内原発は三号機が計画(建設中?)されていました。福島第一の事故で増設なんて口に出来ない状況です。また宮崎県の串間にも原発の建設を目指していました。市は推進の態度で、住民投票寸前まで行きました。しかし投票の一ヶ月前に東北大震災が発生して推進派の市長は公約を破って投票を中止しました。 九州山地はとても険しく越境するのが大変なんです。宮崎が陸の孤島と言われる理由でもあります。そんな120㎞も離れた九州の反対側に小丸川揚水発電所を作ったのはこれらを見越していたのかもしれないですね。
    現在の川内原発2基だけでは小丸川発電所はオーバースペック? 点検とかで二基同時に稼働は少ないようですし。
    それにしても原発のコストって想像以上に高価そうですね。

  3. hap2001 より:

    素人考えですが、揚水発電でなく、普通の水力発電も調整に使えます。
    太陽光はほぼ予測が付きます。それに合わせて発電の放水量(発電量)を調整すればいいと思うんですよ。晴れた日には放水量は少なく、雨の日には最大限放水する。
    水力発電所の年間発電量はダムへの年間流入量で決まりますから、太陽光に合わせて強弱付るだけなら、年間の発電量は変わりません。
    難しいんでしょうかね。

    • bigfield より:

      hap2001さま、

      コメントありがとうございます。
      ご指摘の通り、水力、そして火力も需給調整に使えると思います。

      需要の変動に対してどの位の追従性があるのかは、私もまだ分かっていませんが、分かればまた本ブログでお伝え出来ればと思います。

      今後ともよろしくお願いいたします。

  4. bigfield より:

    山口さま、

    コメントありがとうございます。

    この記事の最初に挙げたように、WWFやISEPなども揚水発電により、太陽光で余った電力の調整に使えるということを指摘しています。

    もちろん、記事でも指摘した通り、揚水発電はもともと24時間365日稼働させることが前提の原発の余剰電力を調整させる目的で作られたものなので、各電力会社の立場からは確かに「想定外使用」という事になると思います。

    とはいえ、この記事では指摘し損ないましたが、北海道電力の揚水発電所である京極発電所が今月に運転を開始しています:

    北海道電力 ニュースリリース「京極発電所1号機の営業運転開始について」
    http://www.hepco.co.jp/info/2014/1189738_1635.html

    北海道も泊原発が停止中なので、この揚水発電を稼働させる理由は、風力や太陽光の調整ではないかと思われます。
    (当面は太陽光や風力の調整をしつつも、真の目的として泊の再稼働を見越した動きかもしれませんが。)

    今後ともよろしくお願いいたします。

  5. bigfield より:

    太陽光男さま、

    川内原発に関する情報、どうもありがとうございます。

    ご指摘の通り、川内原発の原子炉を3つ作る予定があったので、小丸川の揚水発電所の120万kWという規模となったのは多分間違いないでしょう。

    しかし、もう3号基なんて絶対に無理ですね。
    いまある1号基や2号基の再稼働だって、困難なのに。
    御嶽の噴火を見れば、周囲に活火山のカルデラが5か所もある川内を稼働するのは、自殺行為に等しいと思います。

    原発のコストは、放射性廃棄物の再処理や事故時の補償などを考えると経済的に合理性がまったくありません。東電の事故では、完全に企業としての社会的責任を放棄し、ロクに補償すらしていませんが。。。

    今後ともよろしくお願い致します。

  6. kobara より:

    揚水発電はソーラー発電の調整に使えます、
    山口さんの言う日中の電力量が多い時間帯にしか発電できないですが、日中に水をポンプアップして、夕方の需要が多い時に流せば良いので使えます、ただし、天気の悪い日は水が上がらないとか、3割もロスが出るとか言う事情もあります。
    それからhap2001さんの言うダムの水量調整で発電量を調整する方法は、できる所は全てすでにやられていて、調整池式とか貯水池式水力と言います。ただし下流の水量が変動しますので全てのダムでやると言う訳にはいきません。
    私のブログでそのあたり書いてみましたので良かったら覗いてください
    http://blog.goo.ne.jp/soooraaa/e/63a3600e52167d4e027b928a270cefd3
    しかし揚水発電は原発の付帯設備なのは明らかなのですが、発電費用の計算のときだけ水力に入れられているのですよね、揚水発電所建設費用は高いし発電時に30%ものロスが出るので水力の仲間に入れると水力のコストがすごく高いのですが本当は水力が一番安くて、原発が一番高いのですね。

  7. bigfield より:

    kobaraさま、

    コメントありがとうございます。
    貴殿ブログの方も拝見いたしました。

    電力の需要と供給の内訳のグラフをそれぞれの電源ごとに示すと大変に分かり易いですね。

    各電源のコストに関してもご指摘通りで、原発はとにかく不経済だと思います。

    効率が35%とかその程度で、しかも効率が70%の揚水発電で蓄電すると、蓄電した電気の効率はわずか20%そこそこです。

    であれば、危険な原発は再稼働せずに、太陽光をたくさん作って昼間に余った電気を揚水で貯める方が、効率の面でも得策だと思います。

    今後ともどうか色々とご指導下さい。

  8. chieppy より:

    亀レスです。
    5月頃の快晴かつ軽負荷の日中に余った電力を揚水発電のポンプくみ上げに使うアイデアですが、今年2016年の軽負荷時にはついにそれをやったという話を噂話に聞きました。セカンドソースがあれば教えてください。

    • りょん@fppv より:

      天下の日経BP社の記事にあるくらいですから、噂ではなく事実だと思います。

      九電、「優先給電ルール」を発電事業者に周知、他社電源への出力抑制に布石
      金子憲治=日経BPクリーンテック研究所
      2016/07/27 20:27
      http://techon.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/072703300/

      九電は、今年5月4日の需給バランスを公開しており、それによると、13時には太陽光・風力の出力は490万kWと需要の66%に達した。九電は自社火力電源を抑制しつつ、揚水発電の動力運転(汲み上げ)によって、需給バランスを維持した。公表されたグラフから判断すると、九電の持つ揚水動力(約219万kW)は、ほぼフルに活用したと見られ、自社施設での対応が限界に近付きつつあることが伺える。

  9. 町田伍兆 より:

    太陽光発電の購入単価は決まっています。太陽光発電量が余った電気で揚水発電した場合、揚水発電効率七割とすれば.使える電気は約3割少なくなり、太陽光の電気代は揚水発電のおかげで約4割位高くなってしまう計算になります。太陽光発電購入単価は安くないように思いますので、高い太陽光の電気を買って、揚水発電で減らして使うのは電力経済に合わないでしょう。電力のピークは夏の暑い日中です、太陽光発電量はそれに合っています。太陽光発電のおかげで、夏の電力ビークに合わせた火力発電の増設をする必要がなくなり、増設資金が不要になります。火力発電の出力変動か減少して発電効率がよくなります。
    太陽光のおかげで基本デマンド料金少し下がると有難いです。昔の水主火従が逆転しました。
    今度は太陽主火従になるかも。