原発推進派の論客、澤昭裕氏の「殉職」について

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21世紀政策研究所 研究主幹 澤 昭裕氏21世紀政策研究所」研究主幹の澤昭裕氏が逝去された。
享年58歳。現在の日本の平均寿命から考えると若すぎる旅立ちであり、筆者も衝撃を受けた。

このニュース、既にツイッターで速報として流していたが、やはり澤氏がご存命中に持っていた存在感より、筆者として考えや気持ちをまとめておきたいと考えここに記すことにする。

原発推進論者としての澤昭裕氏、御用学者のレッテルも

まず、経済産業省や資源エネルギー庁出身である澤昭裕氏は原発推進論者だったので、ガチの反原発論者である筆者から見ると明らかに「敵」だった訳である。当然、筆者のような反原発派・脱原発派からは、澤昭裕=御用学者というレッテルを張られていた状況も否定できない。

東日本大震災とそれに伴う東京電力の福島第一原発事故後も「安全な原発に限り」と一応の分別は見せつつ、澤昭裕氏は地球温暖化対策として原発再稼働をほぼ一貫して主張されていた。

澤氏が膵臓ガンに冒されていたことが分かり、闘病生活となったここ2ヶ月ほどの間にも、彼が書いた記事はすべて原発再稼働の必要性を訴えたり、福島の復興策を論じたりしたものだ。

筆者としては、彼が膵臓ガンを罹患した原因が原発事故由来の放射性物質である可能性を排除すべきではないと考えている*1。だが、彼が他界した今となっては、その可能性を彼が少しでも考えたことがあるのかすら尋ねることも出来ない。

原発推進の主張にブレなし、太陽光発電への論評は?

ともかく、澤氏はこの約2ヶ月ほどの間、膵臓ガンと闘いながら持論を主張する記事を精力的に執筆してきたようで、それらの一部には筆者も一応目を通しておいた(記事下のリンク参照)。

さすが、一橋大を卒業されて経産省でキャリアを積み、東京大学で教鞭を取っていたというプロフィールの澤昭裕氏らしく緻密で一見説得力がある論理をみてとれる。

恐らく病床で死を覚悟しつつキーボードを叩いていたと思うのだが、主張にブレがなく、首尾一貫して最後まで原発の推進や再稼働を主張し続けたのは敵ながらご立派、アッパレである。

しかし、やはり根本的な所の主張が相容れないので、除染をなし崩しに拡大したのが間違いだったという点以外、筆者には受け入れがたい論点ばかりではある。福島の子供たちに甲状腺がんが異様なほどの確率で多発しているといった事実も当然スルーされている。

それらの各々について本ブログ上で反論することは差し控えるが、澤氏の著した記事のなかに太陽光発電の是非について言及したものもあったので、参考までにご紹介しておく:

太陽光発電の推進は、ドイツを見習え!
わが国の再生可能エネルギー推進派の人たちは、つねづね「ドイツを見習え」と言う。まったくそのとおりだ。日本も太陽光発電の本場、ドイツを見習って太陽光発電施設の整備を進めていかなければならない。

ドイツの再エネ事情を見聞した澤氏の主張には留意すべき

一部、この記事から引用してみよう:

 わが国の再生可能エネルギー推進派の人たちは、つねづね「ドイツを見習え」と言う。まったくそのとおりだ。日本も太陽光発電の本場、ドイツを見習って太陽光発電施設の整備を進めていかなければならない。

 「ドイツは太陽光発電を推進してきた国として有名だ。しかし、太陽光発電事業が周辺自然環境に与える影響に対する規制は厳しいのだ。例えば、施設建設に当たって森林等の伐採を行えば、その6倍の植林を行わないといけない。<中略>」

 これは、今年2月、欧州最大の太陽光発電基地の一つであるノイハルデンベルグ空港ソーラーパークに私が行ったときに、その事業責任者から聞いた言葉だ。
 さすがドイツである。私はドイツのエネルギー政策の矛盾を指摘することはよくあるが、こうした自然環境との兼ね合いを考えながら開発を進めていく姿勢には学ぶところが多い。特に、森はドイツ人にとっては聖なる意味を持つから、なおさらなのだろう。

基本は原発推進論者とはいえ、エネルギー政策に幅広く提言を行うという立場上、澤昭裕氏もドイツには何度か視察などに行かれたようだ。

この記事の最後にある、太陽光の乱開発に対する政策提言はすべてがもし取り入れられていたら大変なことになっていただろうと戦々恐々としそうだ。

だが、強度設計が不十分だった単管架台のソーラーパネルが台風や突風で飛ばされたり、鬼怒川で堤防が決壊した際の造成工事で太陽光発電事業者の責任が問われたりといった事例があったことを考えると、澤氏の指摘したような論点は太陽光事業者としても留意が必要と考える。

原発推進論者にも容赦ない放射性物質の脅威を再認識

それにしても、放射性物質はやはり怖い。

彼の膵臓ガンの原因が100%そうだと決めつける訳では決してないし、「放射脳」などと揶揄する向きがあることも知っている。だが、筆者として個人的には、その可能性が少なからずあったと考えている。

原発に賛成だろうが反対だろうが、放射性物質による内部被曝は人の命にとって大きな脅威である。澤氏が食べ物に気を付けていたのか、あるいは外出時にマスクをしていたのか等は存じ上げないが、恐らく立場上そういったことは無かったのだろう。

筆者から見ると、澤氏はやはり「殉職」したのだと思わざるを得ない。
ともかく、ご遺族の方にはお悔やみを申し上げると共に、澤氏のご逝去を悼みご冥福をお祈りしたい。

澤昭裕氏の遺稿(一部)となった「Wedge」の記事

http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5790
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5794
http://wedge.ismedia.jp/articles/-/5795

(注:「Wedge」は原発推進側のJR東海がスポンサーのメディア)

澤氏の奥様によるツイート


*1: 放射性元素のストロンチウム90がβ崩壊を起こしてイットリウム90ができる。イットリウム90は、すい臓に蓄積され糖尿病や膵臓ガンの原因になると言われている。^

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