電力自由化まであと3か月ちょっとのクリスマス・イヴに、電力の小売り関連で色々と興味深い動きがあったので、まとめておきたい。
- 東京ガスが電気・ガスなどのセット販売を中心とした料金プランを発表
- ローソン(三菱グループ)が電力小売りに参入
- 東京電力がソネットと提携、電力とネット接続(光ファイバー)をセット販売
こういった動きがなぜ同じ日に重なったのかは、電力契約切り替えの予約申し込みが可能となる来月を間近に控え、かつ年末で休暇に入る人が増える前ギリギリで、注目を集めやすくベストなタイミングだったからだと考えられる。
以下、まず東京ガスの発表した内容についての分析や思う所を述べる。
東京ガス、満を持して電力小売り事業の具体策を発表
東京ガスは、恐らくこの発表を満を持して行ったはずだ。
公式サイトのリリース資料(PDF)でも、セット販売のメニューや料金プランの概要を説明するためにA4縦の2枚に加えて、パワポのプレゼン資料23枚も同時に公開するという力の入れようを見れば分かる。
東電から切り替えてくれる顧客を電力小売り自由化の正式開始となる来年4月まで待たずに、正月三が日の明けた仕事始めから速攻で青田買いにくるということである。
NTTファシリティーズ、大阪ガスとの合弁子会社であるエネットも電力小売りに参入する意向を示しているため、グループ内でどう棲み分けるかという課題もあったはずだが、東ガス本体がとにかく一般消費者向けの小売りに打って出ることが今回の発表で規定路線となった。
筆者としては、エネットは同じ小売りでも一般消費者における知名度がないため、高圧などの法人需要などに特化して、東ガス本体とはカニバらないようにするのが事業戦略としては妥当と見ている。NTTファシリや大ガスも含めたトップレベルで既に調整済みなのかもしれない。
デュアルフューエルに加えて、「東京ガストリプル割」やポイント交換、コンテンツ提供など特典山盛りwで攻勢
前振りはこの程度にしてセット販売メニューだが、電気とガスのセット販売は想定の通り。
これは電力自由化で先行する欧米などでは「デュアルフューエル(dual fuel)」と呼ばれエネルギー産業で既に広く普及している商習慣、ビジネスモデルである。
これに加えて、ネット接続を追加した「東京ガストリプル割」、契約者への無料特典となるネット上のコンテンツ提供サービスやポイント交換などを追加し、より多くの層やグループに特典のてんこ盛りでアピールするという作戦で来た。
これは、迎え撃つ東電にとっては、かなり厳しい闘いになるかもしれない。
例えば、神奈川県の筆者宅では当然ながら東京電力の電気と東京ガスのガスを契約している。ネット接続は間に合っているので、とりあえず電気とガスの両方を東京ガスに一本化すれば、それだけで月々250円(年間3000円)の基本料金分が安くなるという。
筆者宅では元々電気の消費量がそれほど多くないので、従量課金分も合わせて安くなるかどうかはきちんと比較してみないと分からない(逆に電気代とガス代の合計が今より高くなる可能性もある。この辺、価格.comやエネチェンジといった価格比較サイトに期待…)。
だが、東電から電気も東ガスに切り替えるだけで節約でき、3月までの早期申込み特典もゲットしたうえで、モラルハザードの王様・東電からオサラバできるのなら、願ったり叶ったりだ(やっと、面倒なコンビニ払いから銀行引落しかクレジットカード決済に復帰できる!)。
東京ガスには、再エネ比率の改善も期待
あと東ガスに望むことは、当面は化石燃料のガスだけでも良いが、できればより環境に優しい再生可能エネルギーの比率を将来的に高めて欲しいということだけである。
ここであまり努力してくれないようだと、企業としての責任感やモラルもあり再エネの比率が高いことをウリにする電力小売り会社との客の奪い合いが発生するといった可能性も出てくるのではないかと思う:
少なくとも筆者は、化石燃料がほぼ100%の電力よりも、10%でも20%でも太陽光やバイオマス、水力、風力、地熱などの再生可能エネルギーを増やした電力をやはり使いたいと考える。
間違っても、東京ガスにはどこかの大手電力が再稼働させる原発の電気を調達して混ぜたり、環境アセス逃れの石炭火力発電によるダーティ自前電源でダークサイドに落ちそうになっていた大阪ガスの真似したりなどして欲しくないw。
欧米では、英Ecotricity(エコトリシティ)や英Good Energy(グッドエナジー)、米Direct Energy(ダイレクトエナジー)や米Green Mountain Energy(グリーンマウンテン・エナジー)、独Greenpeace Energy(グリーンピースエナジー)など、100%再エネの電気をそうでない電気とあまり変わらない価格でも購入可能な時代に入っている。
だが、日本では残念ながら、そういった再エネも自由に選べるようになる段階までにはまだ何年も掛かりそうなのが現状だ。少なくとも、東電の原発事故と言う教訓から謙虚に学ぼうともせず原発推進の方針を変える気がさらさらない愚劣な現政権のままではほぼ絶望的だろう。
クックパッド「人気順検索」のレシピで主婦を狙い撃ち
それにしても、東ガスに契約を切り替える顧客にネット上のコンテンツサービスとして、クックパッドの「人気順検索」を無料で提供というのは、なかなか知恵を絞ったなと思った。もちろん想定するターゲット顧客は、日々の家計を預かり料理もし献立を考える時にクックパッドを利用している主婦層(+主夫とか厨房男子もいる?)である。
主婦の多くがクックパッドのレシピを見て料理を作る参考にしていると思うのだが、恐らく多くは無料部分しか使っておらず、有償(月280円)のプレミアム会員でなければ見られない「人気順検索」のレシピも見たいが「おカネが掛かるならいいや…」と我慢している主婦も多いのではと想像するからだ。
そういった節約志向の主婦にとっては、東電から電気を東ガスに乗り換えれば基本料金でまず年に3000円が浮き、しかもクックパッドの人気順検索がタダで使えるようになると言われたら、「私、絶対に東京ガスに切り替えるワ♪」という主婦の方も相当数いるのでは、と見る。
まとめ:電気は付加価値サービス、十八番のガスで収益をガッチリと確保
電気料金で現在の契約と東京ガスとの契約の比較の図を見ると分かるのは、ガス料金部分については現在と同じであろうということ。つまり、割安な電気料金を付加価値として(極論すると電力事業が多少の赤字でも?)、ガス料金でキッチリと利益を上げるというビジネスモデルは堅持したままだと推測できる。
電気とガスのセット割引、それにネット接続やレシピ、ポイント交換や先行予約者への特典…
こういった様々な特典や割引という作戦は、現在ガスを契約していないオール電化住宅に住んでいる世帯以外には相当な割合で訴求できるのではないか(東ガスの発表資料を見る限り、電気のセット割引はガスの契約が前提で、オール電化住宅の顧客は対象外の模様)。
東京ガスはなるべく東電を刺激しないように気を使っていたということらしいのだが、ここへ来てそういった配慮はもう関係なくなったと見て良さそうだ。
2017年4月になれば、今度はガスの小売りも全面自由化される。そうなると、今度は東電など電力大手が「十八番の電気と付加価値のガス」でセット販売やセット割引を仕掛けてくる公算が高い。
だから、なりふり構わずに「それまでに奪える顧客は奪っておこう」というのが、東京ガスをはじめとした都市ガス大手の本音だと言って当たらずとも遠からずだろう。つまり、1年間の一人時間差攻撃というわけだ。
それにしても、年の瀬を控えて仕事に忙殺され、ブログの更新がなかなか出来ずそろそろ…と思っていたら、クリスマスイヴになって記事にしたいニュースのネタがワラワラと出るわ出るわ(苦笑)。
東ガスだけで相当に記事が長くなってしまったので、続きはまた別の記事としたい。
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