(「日本の再エネ・ポテンシャル:風力だけで日本4つ分をまかなえる」の続き)
先日のCELC総会セミナーで頂いた知識を基に、太陽光発電の事業者はもとより電気を使う消費者なら誰でも知っておくべきではとの思いでこれまでいくつかの記事を書いてきた。
これ以降が、「越後屋」と「悪代官」が結託している重要な部分となる。少し専門的な用語も出てくるが、出来る限り分かり易くお伝えできるよう努めたい。分からない事などあれば、コメントなりフォームなりでご連絡を頂ければご説明させて頂くつもりである。
さて、新電力潰しや再エネ潰しのための手段にはいろいろとあるが、今回のセミナーで教えて頂き明確に分かっているものは、次の三つ:
- 低圧に負担を押し付ける託送料金
- 回避可能費用の市場連動
- 再エネ(環境価値)表示の禁止
まずは、託送料金からご説明する。
電気の託送とは
電力業界に関係ない方は、「託送」などと言う言葉すら聞いたことも無いかもしれない。
簡単に言うと、電力分野の託送というのは、一般電気事業者(=大手電力の10社)が所有する送電線を発電事業者や新電力事業者が使い、ある場所から他の場所に電気を送ることである。
現行の再生可能エネルギーの固定価格買取制度では、発電所のある場所の電力会社、例えば北海道なら北海道電力、首都圏なら東京電力が電気を買い取ることを義務付けられているため、我々のような個人や中小企業で低圧連系(50kW未満)の発電事業しか行っていない太陽光発電事業者は一般に託送など考える必要すらない。
しかし、現在既に自由化されている高圧の電気事業だと話は変わる。
新電力の電気事業者は、高圧(>50kW)であれば、売買が自由であるため、例えば新電力A社が電気をA社から買いたい製造業B社に電力の売買ないし需給契約を締結することが可能(なはず)である。
この場合、もし新電力A社の発電所が都合よく製造業B社のすぐ傍にあったりすれば、何ら面倒なことはないのだが、普通はそんな訳には行かないだろう。となれば、新電力A社がお客のB社に電気を送るために、その管轄の電力会社が保有する送配電線を使う必要が出てくる訳だ。
したがって、新電力A社は、A社の発電所のある北海道のα地点からお客B社の事業所β地点まで送電線と配電線を使わせて下さい、と北海道電力に対してお願いすることになる。
(ここでは、簡単のためにβ地点も北海道のどこかということにする。現実には、電力会社の営業エリアをまたぐ託送も、料金計算など結構ややこしくなりそうだが当然ありえる。)
電力自由化後には低圧での託送が増加
この一連の記事の最初にお伝えしたように、来年の4月から小売りや低圧の電力の売買などがすべて自由化されるため、これまでは高圧でしかほとんど出番のなかった託送が、低圧でも多く利用されることになりそうな訳である。
このとき、電力大手10社は、新電力や他の電気事業者が送電網を使う時に、料金を請求する。これは、現在の送電線がそれぞれの電力会社の所有物になっていることから考えると、当然の商行為ということになるだろう。
ところが、現在電力の市場では各地域でそれぞれの大手電力各社が、電気の安定供給の義務と引き換えに地域独占の状態を認められているため、送電線の使用、つまり託送にも競争が無いのである。
もちろん、託送自体が電力事業の一部であり公共的な色彩の濃い仕組みであるため、当然国が関与してくる訳だが、その託送料金の設定が大問題なのだ。次の図をご覧頂きたい:
低圧(200V)、高圧(6600V)、特別高圧(2万2000V)という三種類の送電線に対して、大手電力10社の託送料金の試算値が示されている。この図を見ると分かるように、低圧の託送料が高圧や特別高圧に比べて圧倒的に高い。
これがどういう意味かと言うと、つまり低圧の電気代を負担する顧客(個人や家庭が大半)が、低圧の託送料を電気代として使用した電気の量に応じて支払う訳で、その料率が4円/kWh前後の高圧や2円程度の特別高圧と比べると、ほぼ8~9円/kWhと2~4倍のバカ高いレベルなのである。
自然エネルギーの地産地消を妨げる、低圧の高い託送料
現在でも、電気代は企業の大きな事業所や工場など大口需要家の電気代の単価が安く(それでも海外に比べると高い)、家庭用の電気代の単価は最も高い。
規模の経済の観点からは、大口顧客の単価が安くなることは理に適っていると言えなくもないが、大企業が安く電気を使い、そのツケを一般の家庭や零細事業者が高い料率の電気料金で払わされているのが現状である。
また、再エネ電力の事業者の目線で考えると、低圧の電力の託送料がこのように高い単価となっていると、例えば低圧の電線を使って、γ地点の太陽光発電所からδ地点のお客さんまで電気を送るといったことが、非常に難しくなってしまう。
顧客に請求する電気代には、一般電気事業者に支払う託送料も事業コストとして含める必要があるからだ。
つまり、資エネ庁が示している託送料の体系では、太陽光や風力など再エネ分散電源の「地産地消」といったシナリオが非常に描き辛くなってしまうのだ。「越後屋」や「悪代官」からすれば、
再エネの地産地消を潰すにゃ刃物はいらぬ。低圧の高い託送料金があればいいw。(゚∀゚)アヒャ
とでもいったところだろう。
こういった歪んだ託送料金体系、大企業や大口需要家を優遇し個人や家庭、中小の再エネ発電事業者から搾取するような電気料金の制度や構造が、来年の電力自由化以降も継続するということである。
(続く)
コメント
託送料が低圧で高いのは、簡単に説明できますよ。
たとえば、38sqのケーブルで送れる電力量を見てみましょう。
高圧6600V×170A×1.732×1.0÷1000W=1943KW
低圧210V×155A×1.732×1.0÷1000W=53.37KW
電圧差で、約40倍の差があります。単純に全部低圧線で送るわけではありませんが、
高圧→低圧にするトランスなども必要になりますので、託送料については
高いのも仕方ないですよ。
匿名希望 さま、
コメントとご説明どうもありがとうございます。
私の記事では、単に「規模の経済」として詳しく触れなかった部分を掘り下げて下さり、感謝いたします。
ただ、再エネ自体が政策抜きの経済だけでは成り立たないのと同様に、電力自由化における新電力、とりわけ再エネに特化した新電力は「仕方ない」で片づけていては市場から退場させられるだけです。
電力システム改革の再エネワーキンググループの議論では、低圧の託送料を下げるという提案も出ていたと聞いています。ところが、最終的に結着した料金はここで示したとおりです。
つまり、国は資本力のある企業、従来の電力大手が市場で勝ち残る「弱肉強食」でよいと考えている訳ですね。(それこそ、「越後屋」の思惑通り)
電力自由化を今やる意味やエネルギー安全保障、地域経済の活性化といったことを考えた時、どのような施策を考えるべきかはかなり明らかだと思います。
個人的には大変遺憾であり、多数の市民電力や自治体ベースの電力(シュタットベルケ)も成り立つドイツのような国が羨ましく思えて仕方ありません。