パナソニックが同社製の太陽光発電システムを購入した顧客に対して、電力の受け入れが制限(出力抑制)された場合に一時金を支払う補償プログラムを開始すると発表した:
この出力抑制補償制度、固定価格買取制度のプレミアム買取とはまた異なる制度のようで、少々分かり難いのだが、いずれにしても一般電気事業者(東京電力など電力大手10社)が太陽光発電による電力の受け入れを制限(拒否)したときに、最大で10万円を支給するという。
この出力抑制補償制度の対象や条件などは、日経電子版の記事によると以下の通り:
- 期限:2016年3月末までにパナソニックの太陽光発電システムを購入すること
- 対象:補償の対象となる太陽光発電システムは、出力が50kW未満(=低圧連系)
- 補償金額:5kW毎に1万円を支給、最大10万円までの一時金
- 支給対象期間:2026年3月末まで
パナソニックの定めたこれらの条件や制限をみると、基本的には産業用ではなく住宅用の太陽光発電システムを対象とした補償であることが分かる。既に本ブログでも少し書いたが、パナは基本的には産業用ではなく住宅用を主な注力市場としているので、その意味では首尾一貫した補償である。
いくらパナソニックの高効率な「HIT」が評判が良くても、発電した電気を電力会社がきちんと買い取ってくれないのでは、意味が無い。なんとかして自己中な電力大手による出力抑制の影響を食い止め、太陽電池の販売を伸ばしたいという苦心の跡がうかがえる。
さて、こういった電力大手の我儘によるリスクを一定の程度ながらも太陽光発電システムのメーカーや販売会社が肩代わりするというサービスは、我が国の住宅用太陽光発電業界で受け入れられ、究極的にはデファクト標準のような地位を獲得するだろうか。
一歩間違えば、出力抑制による補償金が膨大な金額となってしまい、太陽光発電事業が大赤字になってしまう恐れもあるので、猫も杓子もと言う訳には行かないだろう。
かといって、パナが出力抑制を懸念する顧客の取り込みに成功した場合、競合他社として指を咥えて黙って見ている訳には行かないだろうから、この種の出力抑制補償サービスが他のメーカーや販売会社から続々と出てくる可能性もありそうに思う。
カギを握るのは、大体以下のようなファクターや条件だと思われる:
- 出力抑制が起きにくい太陽光発電システムの技術
- 出力抑制の発生する頻度や可能性の予測技術
- 補償サービスを提供する企業の財務体質
以下、順に解説しよう。
出力抑制が起きにくい太陽光発電システムの技術
まず、製造・販売する太陽光発電システムが、出力抑制を起こさないような仕組みになっていれば、電力会社側が出力抑制を行おうとしても回避できる可能性がある。
究極的には、十分な蓄電容量を持つ定置型蓄電池を併設した太陽光発電や風力発電なら、ガス火力発電と同様にリアルタイムで出力の細かい調整が可能となる。ただ、現時点での問題は、まだ蓄電池(特にリチウムイオン電池)のコストが高止まりしており、事業者として簡単には設置できない状態にあるのが難点。
パナソニックも、現時点では蓄電池付きのシステムを前提とはしていないはずで、だからこそ補償の一時金という異例の販売促進策を捻りだしたに違いない。ただ、現在テスラモーターズに18650電池セルを供給しているのはパナソニックであり、テスラの車両販売台数が順調に増加すれば、パナの電池セルも規模の経済でコスト低下が進み、競合に負けないだけの低コストでの供給が可能となるかもしれない。
(ちなみに、「パワーウォール」の件は、テスラがそういった状況を先取りして宣言し、その販売価格を見てイノベーターやアーリーアダプターの顧客が飛びついたという現象と解釈することもできる。)
蓄電池以外だと、あとはパワコン等の系統に繋がる所で出力電圧を多少調整する位しかないと考えられるが、ピーカンの晴天時に需要が急減する時(たとえば、晴天時のゴールデンウィークの最中)などでは、このような小手先の調整ではお手上げで太陽光は軒並み出力抑制がかけられるのかもしれない。
出力抑制の発生する頻度や可能性の予測技術
次に、出力抑制の発生する確率や可能性、実際に発生するとした場合の頻度や時間がどの程度かを予測する技術やノウハウである。天気や年間の何月何日、あるいは曜日や時間といった周期的な要因によって、電力の需要と太陽光発電による供給、さらにある地域における系統網の容量に対する需給状況は、ある程度までであれば予測が可能だからだ。
パナソニック、または新電力事業をパナソニック・グループで手掛けるパナソニック・エプコには、電力需給の予測を行うかなり高度な技術があると見ている。
それにより、住宅用の太陽光発電システムでは、電力会社が恫喝するような無制限の出力抑制はあまり起きず、一時金で補償を行うとしていても、それに掛かる費用が太陽光発電システムの事業収益全体からみて無視しうる、または十分に吸収が可能なレベルに納まると現時点では見切っているフシがあるように思う。
同様の技術は、例えば新電力系のベンチャー企業で近年とみに有名になったエナリスや、太陽光発電キットを売りまくって急成長を遂げたLooopなども持っているとしている。(どの企業の予測技術がどの程度優秀かといった優劣の度合いは、残念ながら不明。今後できれば見極めていきたい。)
もちろん、予測は予測。時には実際の出力抑制が予測値よりも多めに発生してしまうようなこともあるかもしれないが、それでもシステムの出力がこれ位なら統計的に±1σ(シグマ)とか±2σといった範囲で抑制の発生確率が大体これ位、といった見極めが可能なのだろう。
補償サービスを提供する企業の財務体質
抑制を起こしにくい太陽光発電システムを販売し、出力抑制の発生確率や発生頻度もそれなりの確度で予測できた。さて、それでも出力抑制が起きる時は起きる(かもしれない。神のみぞ知るw?)。
そうなった場合、顧客に約束したように補償金を支払わなければ、どこかの国の嘘つき首相とは違って企業は信頼を失うと誰にも相手にしてもらえなくなり、いずれ潰れてしまう。
となれば、究極的に最も重要なのは、出力抑制の補償サービスを提供するメーカーなり販売会社の財務の健全さだろう。
かつては「電子立国」などという格好良いニックネームで自称する某メディアすらあった我が国だが、現在は見る影もないほど電子業界が疲弊してしまっている。このため、太陽光発電事業を手掛ける電機大手の財務体質も良いところはあまり多くない。
パナソニックに関しては、公表されている年度ごとの単独決算の推移をみると、売上高は4兆円前後を上下しているものの、当期利益は大幅な赤字が改善されてきている。昨年度(2015年3月期)の決算は、約83億円の黒字を計上し、経常利益もこの過去3年はずっと増益基調だ。
パナソニックの場合、この過去2~3年ほど相当に厳しいリストラを行ってきており(ところで、電気代をすぐ値上げする癖に、電力大手の役員が高給取りなままなのは一体どういうことだ?)、こういった財務内容の改善があるからこそ、太陽光の事業で攻め、出力抑制の補償という思い切ったサービスを打ち出すことも出来たはずである。
結論:出力抑制の補償まで行うのは当面パナソニックだけ?
ということで結論なのだが、太陽光発電を手掛ける企業で、電力大手の出力抑制に対する補償サービスは流行るだろうか?
住宅用への本格参入は今年からとなる中国や米国、ドイツなど海外のメーカーは、ブランド認知度の向上などが先なので、そこまでやるかどうか何とも言えない。どちらかと言えば、産業用でかなり販売を行ってきたという蓄積があるので、少なくとも当面は様子見に徹する可能性が高いように個人的には思う。(だが、パナに倣って補償を販促手段として住宅用をテコ入れする海外勢もあるかも?)
従来、住宅用を主戦場としてきた国内大手メーカーはどうか。
上述した、技術や財務体質以外の要素も考慮しつつ独断と偏見で予測してみるとすれば…
出力抑制に対する補償サービスを行う可能性がある企業:
- 京セラ
- 三菱電機
出力抑制に対する補償サービスを行う可能性がないと思われる企業:
- シャープ
- ソーラーフロンティア
- 東芝
蓄電池無しのシステムを前提とすれば、技術的に国内大手ではどこもあまり差は無いように思う。モノを言うのは、やはり財務体質ではないだろうか。京セラは自己資本比率が約80%と非常に健全な財務体質だし、三菱電機も約30%とパナソニックの20%前後より財務面では体力がある。
こういった攻めの販促をやるかどうかは企業文化にもよるので、営業やマーケティングが保守的な会社だとすぐにはやらなさそうな気がする。だが、パナに顧客を一方的に奪われるような事態になると、慌てて追従すると言ったシナリオはあるかもしれない。
補償サービスを行う可能性がない会社は、巨額赤字でそれどころでは無かったり(シャープ)、親会社が経営統合で忙しかったり?(ソーラーフロンティア)、あるいは不正会計で派手な販促は自粛?(東芝)といったところである。
もちろん、パナの補償サービスが不発に終わり、住宅用太陽光の需要が今後さらに伸び悩むという展開も考えられる。この場合、他社がわざわざ追従する可能性は低く、どの企業も海外展開とか産業用で残った落穂拾いで顧客の争奪争いとか、あるいはそれ以外の販促手段でなんとか凌ぐといったところだろうか。
テスラの「パワーウォール」の国内での販売が開始され、系統網の需給バランス安定化や平準化に使用することが可能となれば、出力抑制の問題も理屈の上では解決しそうに思うのだが…
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