太陽光発電で世界一周中のソーラーインパルスを名古屋で見学した

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ソーラー飛行機で世界一周、ソーラーインパルス2

昨日、押っ取り刀で駆け付けた、「ソーラーインパルス2(Solar Impulse 2: Si2)」の見学会、やはり少し無理をしてでも名古屋まで行っただけの甲斐が大いにあったと感じている。

最近の我が国の太陽光発電を取り巻く環境を考えた時、やれ買取価格が下がった、やれ出力抑制がかかるようになった、、、と言った具合にとかくネガティブな事に囚われがちである。

現実問題として、我々太陽光発電事業者の懐具合に直結するため、そういった細かい数字にこだわり、少しでも収益を増やす方向に持っていこうとするのは当然のことだ。

しかし、エネルギー事業者としてもう一段高い視点から、現在のエネルギー事情や持続可能性(サステナビリティ)といった事を俯瞰すると、また違った発想でそれらを捉えることができる、そんな気がする。

ソーラーインパルスは、そういった発想の転換のきっかけを我々クリーンエネルギーに関わる者、そしてエネルギーを消費する人すべてに与えてくれるのではないか、そう思う。

昨日の見学会の最中、ソーラーインパルス・プロジェクトのスタッフによる説明で非常に感銘を受けたことがあった。それは、「一般の飛行機(旅客機)は乗客を運ぶ。一方、ソーラーインパルスは乗客を運ばない(運べない)が、『メッセージを運ぶ』」という主張である。

これまでソーラーインパルスの事を考えた時、正直な所
「太陽光のエネルギーだけで空を飛べるのは確かに凄い。でも飛行機を操縦する人が1人しか乗れないんだよな~」などとも思っていた。

しかし、その「メッセージ」を運ぶ、という主張を聞き、目から鱗が落ちたのである。
このプロジェクトにイチャモンを付けようと思えば、付けられることは色々とあるだろう。

例えば、このソーラープレーン自体は完全にゼロエミッション飛行を行うのだが、世界一周の旅をサポートするためにスタッフ数十名や機材も付いて回る。(だから名古屋にも来て、我々が見学出来ることにもなった訳である。)

それらは、既存の物流インフラを利用する訳で、当然温暖化ガスを普通に排出してしまう。

だから、そこだけを問題にするとプロジェクト全体としては恐らく温暖化ガスを多少なりとも増やしているはずで、温暖化ガスの増減だけで見れば、何もしない方が良いじゃん、という結論を導き出すこともできるだろう。

しかし、このプロジェクトの意義はそこではなく、ソーラー飛行機がゼロエミッションで初めて世界を一周でき、それは現在の要素技術を組み合わせる事で十分に可能ということなのである。

ソーラーインパルス見学会(2015/6/10@名古屋飛行場)

ソーラーインパルスを名古屋で見学

前振りが少々長くなったが、ソーラー・インパルス2見学会の模様を順を追ってお伝えしよう。

太陽王子からの連絡に従い、愛知県の県営名古屋飛行場に午前10時過ぎに到着した。

予定では、太陽光発電ムラ関係では全部で5名のメンバーと聞いていたが、フタを開けてみると、その内のK氏が何名か同行されて来ていた。しかし、特に人数の厳密なチェックがある訳でもなく、OKとなったようだ。この辺、大らかというかユルユルと言うか…

ともかく、空港の中に立ち入るための腕章を空港の入り口付近でそれぞれ頂いて、腕に付け、クルマに乗りこんで、いよいよソーラー・インパルス2が保管されている移動式格納庫(mobile hangar:モバイルハンガー)へと向かう。

モバイルハンガーまで移動するクルマに乗りこむ

クルマに乗り、ほどなく、白地の気球か風船を半分に割って伏せたものをいくつか連ねたような形のモバイルハンガーが見えてきた。

いよいよ、ソーラー・インパルス2の機体を見れると思うと、ワクワクしてくる。

ソーラーインパルスが入っている移動式格納庫

Si2のモバイルハンガー(車内より)

モバイルハンガーの前に到着して下車すると、現地では広報担当のマリーさんが出迎えてくれた。

ソーラーインパルス・プロジェクト広報担当のマリーさん

ソーラーインパルス・プロジェクト広報担当のマリーさん

簡単な挨拶と簡単な注意事項の説明を聞き、技術者のダニエルさんを紹介すると、ほどなく一同はモバイルハンガーの中へと入る。

ソーラーインパルス2プロジェクト・スタッフの技術者、ダニエルさん

モバイルハンガーの入り口から見たソーラーインパルス2

ちょうど、主翼の片側の方に入り口があり、そこから入ると長い主翼を眺める形になる。
やはり、長い。主翼の全長は72mとジャンボジェット機と同じかそれ以上である。

ソーラーインパルス2

ここで、マリーさんがなぜ地上でスタンバイ中のSi2にはモバイルハンガーが必要なのかを説明してくれた。

モバイルハンガーと養生で保護されるSi2

Si2の機体は炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で作られており、その上に太陽電池がほぼ全面に敷き詰めるような形で貼り付けられている。雨や霰、などが当たると、やはりそれが傷んでしまうのである。

晴れでもいけない。なぜかと言うと、晴れて太陽の光が当たると、太陽電池が発電するのだが、飛んでいなければ蓄電池の容量以上は電気が使われず、太陽電池が熱くなってしまい、その熱でプラスチックが溶けてしまうのだ。

このため、どのような天候であれ地上でのスタンバイ中にはモバイルハンガーに格納し、保護しなければならないと言う訳である。

ちなみに、Si2の飛行中は高度が5000~8500mと相当に高い所を飛び、雨や霰の影響は受けない。また、飛行中は太陽電池の電力も飛行するためのモーターで消費するために熱の問題も無いということである。

ソーラーインパルスはまだ名古屋に留まっているが…

ソーラー・インパルス2と太陽王子

ソーラーインパルス2(Solar Impulse 2: Si2)が今月頭に名古屋飛行場に緊急着陸して以来、近くの方で見に行ったりした方も多いと思うが、テントのようなモバイルハンガーの中にスッポリと覆われ、その雄姿を見ることが出来ず残念に思ったかもしれない。

昨日はその理由について触れた訳だが、それを読んで頂ければなぜSi2が格納庫の中にいるのか、お分かり頂けることだろう。

ソーラーインパルス2は6/13の時点でもまだ名古屋に留まっている。

先日聞いた限り、一部損傷した機体の修理は終わったが、天候の状態が良くないためハワイへの飛行はまだ出来ないようだ(取材時は早ければ今週末かも、と話していたが)。

さて、当初筆者が聞こうと思っていたSi2の技術的な詳細について、もう少し掘り下げておこうと思う。

ソーラー・インパルスのコクピット部分

本ブログの読者の方は、産業用または住宅用の太陽光発電を行っているか、行おうと考えている方だと思うので、太陽電池と蓄電池を積み、完全に太陽光のエネルギーだけで世界一周に挑戦しているソーラー・インパルスの技術についても何らかの興味がおありかと考えるからだ。

とはいえ、取材・視察の当日は、用意していた技術詳細の質問の回答が得られなかったりした。それでも、「メッセージ」を運ぶ、というコンセプトにしびれた筆者は、そういった些細なことなど、どうでも良いという心境にあったことを白状しておこう。

ちなみに、太陽王子は「ソーラー・インパルスの世界一周が終わったら、太陽電池を取り外して地面に並べると低圧の太陽光発電所が1基出来るよね…」などと冗談半分で話していた(苦笑)。

実際、それは確かに十分に可能な話なのである。

Si2は、米サンパワー製の単結晶シリコン太陽電池セル(発電効率22.7%)を17,248枚主翼や機体の上側に貼り付けている。一枚当たりの出力は不明なのだが、Wikipediaの情報によると、総出力はピークで66kWとあった。

計算すると、一枚当たりの出力は約3.83Wとなる。サンパワーはこの太陽電池セルを何十枚か使って250Wとか300Wの太陽光発電モジュールを製造しているはずで、計算上は大体あっている。

太陽王子が指摘していた通り、確かにソーラー・インパルス2は低圧連系の太陽光発電所1基分(16kWほど過積載w)の太陽電池を使って、世界一周にチャレンジしていた訳である。

UAE・アブダビ上空を飛ぶソーラー・インパルス2
UAE・アブダビ上空を飛ぶソーラー・インパルス2(写真:Solar Impulse)

それはそうと、ソーラーインパルスを見ても太陽光発電所に換算してしまうあたり、太陽王子といい筆者といい、やはり職業病かもしれない(爆)。

(続く)

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