インリーが”主役”:太陽電池業界の再編劇/第三幕

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早ければ今後1年かそれより早い時期に、太陽電池セクターで業界再編ないしメーカーの統廃合といった大きな動きが顕在化する可能性がある。

主役となりそうな企業は、中国のインリーソーラー、それにかなりの確率で日本のS社といったところか。サンテックの破たんを業界再編劇の第一幕、Qセルズが第二幕とすれば、インリーらは第三幕と言えるだろう。

実は、日本国内ではほとんどニュースにすらなっていないが、台湾の「TSMCソーラー」というメーカーが、この6年ほど頑張ったが黒字化とこれ以上の事業継続が困難と言う理由で、結構ひっそりと太陽電池事業から撤退したという経緯がある:

Why TSMC Is Exiting Solar
It looked good on paper. Taiwan Semiconductor Manufacturing Co.—the large, relentless and hugely successful chip manufac...

TSMCソーラーは、グローバル市場の半導体大手である台湾半導体製造株式会社(TSMC)系列でCIGS系化合物薄膜太陽電池の製造と販売を行っていた。

CIGSと言えば、日本でもホンダ系のホンダソルテックが手掛けていたが、CIS/CIGS系では筆者もお世話になっているソーラーフロンティア以外ほぼ全滅といった様相を呈してきた。

ホンダ、太陽電池事業から撤退
ホンダは、ホンダソルテックによる太陽電池事業を終了することを昨日の夕方に発表した。 うーむ、ちょっと、いや、かなり残念なニュース。 ホンダのニュースリリース:  「太陽電池事業子会社 ホンダソルテックの事業終了について」 ホンダソルテックは...

CdTe(カドミウムテルル)も入れれば、米国の太陽光パネル大手のFirst Solar(ファーストソーラー)が頑張っているが、化合物系は相当に統廃合が進んできている。シリコンの方は、先に述べたように今後ダイナミックな展開があるのではと想像する次第。

太陽光発電パネルの市場は慢性的な供給過剰

背景にあるのは、太陽電池・太陽光発電パネル市場の慢性的な供給過剰だ。

太陽電池や太陽光発電モジュールの分野は、いま中国を中心にメーカーが多すぎる状態にある。そのため、常に供給が需要よりも多くなりがちである。コモディティの市場として捉えた場合、製品の価格には常に下押し圧力が働くことになる。買う側としては価格の下落は嬉しい訳だが。

(実際には、コモディティ市場とはいえ、各社が様々な技術や工夫を製品に反映している。そのため、そういった技術や機能といった部分で差異化できているメーカーは、血まみれの価格競争からは少し離れた場所で闘うことができ、規模の経済やW単価(kW単価)だけで勝負せずに済む場合があるかもしれないが。)

それでも、入って来るおカネと出て行くおカネをきちんと管理できている会社は、なんとか利益を出せる状況にある訳だが、そうでない企業は台所がまさに「火の車」となり、資金繰りに腐心せざるを得なくなる。

ということで、インリーに関しては当ブログでも既に何本も記事を書いて常に可能な限り最新のニュースを提供させて頂いている訳である。

その行(くだり)では、中国政府の動向が一つのカギだと書いていた訳だが、最近ネットで調べていた所、どうも中国政府(MIIT、日本の経済産業省に相当する官庁)としては潰れそうな企業を救済するよりも業界再編やメーカーの統廃合を促進したいという意向を持っているらしいことが分かった:

だからと言って、いま経営危機にあるメーカーがすぐに倒産する訳では必ずしもない。

「トーリング」で稼働率を引き上げて頑張るインリー

インリーに関して言えば、先の第2四半期の業績発表の時点でも公開されていた情報で、同社が太陽光モジュールの「トーリング」(OEM)によって、競合他社に助けてもらい何とか工場の稼働率を下げずに頑張っているらしいことも判明した:

Chinese manufacturing rivals come to Yingli Green’s aid
The precarious financial position of major tier-one PV manufacturer Yingli Green was further highlighted in its second q...

上記のニュースによると、太陽光モジュールのトーリングとは、シリコンウェハーやEVA、バックシート等の原材料を発注元の太陽光パネルメーカー(≒競合他社)から供給してもらい、太陽光発電パネルを製造して、発注元のメーカーに納めて加工賃をもらうという事業である。

このようにご説明すればお分かりの通り、トーリングという事業を行えば原材料の仕入れに掛かるおカネが不要で人件費や電気代など工場を稼働させるコストだけを負担してソーラーパネルの製造を行い、稼働率を維持することが可能になるという訳だ。

一方、あまったキャパシティ(製造能力)でインリー自社でのブランドのソーラーパネルを製造し出荷する。このようにして、インリーは第2四半期の工場の稼働率をなんとか最大90%台まで上げて操業を続けることができたという。

X社のソーラーパネル、実はインリー製?

ここで太陽光発電事業者にとって留意しておかなければならないことは、太陽光パネルのメーカー(恐らく、中国企業?)でトーリングによってインリーに太陽光発電モジュールの製造を委託しているメーカーがあるということだ。

だから、ブランドXのパネルは製造もX社だと思ったら、実は製造工場がインリーだった、という可能性がある。X社は自社の出荷するパネルと同じものを製造して納入するようインリーに指示しているはずだが、ソーラーパネルの見た目はともかく品質まですべてX社と同じになるのかどうかまでは分からない。

もちろん、X社がしっかりした品質管理基準を持っており、自社工場かインリーが製造したパネルかを問わず、出荷時の検査やQCを行っていれば問題は無いだろう。気になる方は、パネルのメーカーにこういった可能性について確認しておく方が良いかもしれない。

「敵に塩を送る」太陽光パネルメーカーはあるのか

上述のPV Tech記事によると、どのメーカーがトーリングによりインリーに製造を委託しているのかは”unspecified(特定されず)”とあり、公けには明らかにされていない。

一方、このような経緯を見ていると、MIIT(中国政府)としてインリーの倒産といったハードランディングをけっして望んではいないものの、淘汰される企業は淘汰させ、より強いメーカーが世界市場で強さを発揮すべきと考え、それを政策として着々と実行しているように感じられる。

そうでなければ、競合相手である太陽光パネルメーカーが、まさに「敵に塩を送る」という日本の諺そのままの行動で、いつ倒産してもおかしくない競合(Y社)を救済するはずが無いからだ。

さらに、中国政府が秘密裡にインリーを支えているという仮説に従えば、10日ほど前に書いたようにアフリカのベンチャー企業がインリーと合弁企業を作るといった、現時点ではちょっと考えにくいような出来事も説明がつくことになる:

インリーが西アフリカで太陽光発電のJVを設立
インリーとナメネがガーナに合弁会社を設立 インリーソーラー(Yingli Green Energy:YGE)が、欧州子会社を通じて西アフリカで太陽光発電事業を目的とした合弁会社(JV)を設立すると発表した。 具体的には、インリーソーラーのド...

つい一昨日ころに発表があった、PRWStationというスイスのベンチャー企業も同様かもしれない:

PWRstation | Empowering Homes with Solar Solutions
Discover innovative solar solutions for homes from PWRstation. We provide efficient, eco-friendly Dyptic and Tryptic sol...

今後のシナリオとして、インリーがどこかにM&Aされるとしたら、今トーリングによってインリーの救済に一肌脱いでいるメーカーのどこかになる可能性が高いのではと考えている。

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